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Saturday, February 15, 2014

衝立ての娘

衝立ての娘は、日本をはじめ世界各地の昔話を収集していた小泉八雲 (Lafcadio Hearn, 1850-1904) によると、江戸時代の作家白梅園鷺水によって伝えられた話のひとつである。若い学者が骨董屋で見かけた衝立てに描かれた少女に一目惚れして、買い求め、恋焦がれているうちに、心配して訪ねてくれた老学者から、遠い昔に亡くなったもののまだ魂は古い絵の中で生きているそのモデルの少女を衝立ての絵の中から出す方法を教わり、それを成し遂げて、来世も含め、永遠の愛を誓うというストーリーである。

 西洋には象牙の彫刻が生身の女性になるピュグマリオーンの伝説がある。

 中国には黄鶴楼にまつわる壁に描かれた鶴の伝説がある。これは人ではなく鳥の話だが、どこかでつながりがあるかもしれない。

 これらの話のモチーフの貸借関係は不明だが、いずれミッシングリンクは見つかるだろう。

黄鶴楼の鶴
ピュグマリオーン


Sunday, December 15, 2013

壁に描かれた鶴

昔々、中国の揚州に若いあるじが営む小さな居酒屋があった。ある日、みすぼらしいなりの道士がやってきて、酒を所望した。あるじは酒を提供したが、お代は取らなかった。道士は半年もの間、何度となく店に訪れてただ酒を飲んだが、ある日、礼をしたいと申し出て、壁に黄色い鶴の絵を描いた。鶴は、酒を飲んで陽気に手拍子を叩きながら歌う客がいると、歌の調子に合わせて、壁の中で美しく舞い踊った。この鶴が評判となり、店は大いに繁盛するようになった。店は儲かったお金で道教寺院の黄鶴楼を建てた。

 この伝説にはいくつかのヴァリエーションがある。例えば、鶴は歌が聞こえてくると、壁から飛び出して舞った、というものや、数年後に道士がまた居酒屋にやってきて、笛で音楽を奏でて鶴を壁から出すと、それに跨って、いずこかへ飛び去った、といったものである。

 この伝説は落語の左甚五郎物や、小泉八雲が採録した伝説『衝立ての娘』などにモチーフを提供した話なのだろう。

 揚子江沿いに建っている黄鶴楼は李白をはじめ中国の詩人たちのお気に入りの場所である。

鉄の杵も磨けば針になる (李白が出て来る投稿)
衝立ての娘


Saturday, June 02, 2012

首を取り換える中国の怪談

国清代の『聊斎志異 (リョウサイシイ)』には、嫁の首を美人のものと取り換える陸仙の話が載っている。『聊斎志異』は巷間に流布していた怪談を集めて書物にまとめたもので、編者は蒲松齢 (ホショウレイ: 1640-1715) である。蒲松齢はいうなれば中国版小泉八雲といえるだろう。

陸判は死後の審判を行う十人の判官の一人である。仲間にそそのかされて陸をこっちの世界に連れてきたのは怖れ知らずの朱という男で、朱と陸は酒を酌み交わすうちに親しくなっていく。ある晩、朱が先に酔って寝てしまうと、陸は心臓移植手術のようなことを行う。古代エジプトと同様に中国でも心臓が思考や記憶や感情と結びつけられて考えられていたらしい。朱の文才は見違えるほど向上した。(古代エジプトの最後の審判では、あの世の神々が死者の心臓の重さを計ることで判定を下していた)

やがて朱は、内臓が取り換えられるなら首も換えられるのではないかと質問した。陸は、もちろん、と答えた。朱は、妻の下半身は良いのだが、顔がいまいちなので、換えてもらいたいと頼んだ。陸は、いいとも、と答えた。

しばらくして陸は美人の首をどこからか手に入れて持って来て、眠っている朱の妻の首を匕首ですっぱっと切り落とした。首は瓜のようにごろりと転がり落ちた。陸は朱に切り落とされた首をどこかに埋めておくよう命じた。そして、妻の胴体に美人の首を取り付けた。

陸判の話はこのあとも続くが、中国における首を取り換えるモチーフについて見てみよう。

ブスの首と美人の首を取り換える民間伝承の話は古くからある。中国史上の四大美女といえば、越から呉に献上され呉が滅びる原因をつくったとされる春秋戦国時代の西施、和睦の為匈奴に差し出された前漢の王昭君、唐の玄宗の妃となり、自らの一族を次々に要職に就けて権勢を思いのままにふるった楊貴妃、そして、『三国志』で王允 (オウイン) の謀略に利用される貂蝉 (チョウセン) であるが、貂蝉の顔は本当は醜かったのだという。王允は華佗 (カダ) にそのことを相談すると、華佗は貂蝉の首を切り落として西施のものと取り換えた。

それにしても、首を取り換えても、人格が変わらないのは、心が心臓にあると考えられていたからなのだろう。近代になるまで脳の役割は解明されなかったようである。

首を取り換えるきっちょむ話
臥薪嘗胆 (西施がらみ)
狐仙 (『聊斎志異』)

情人眼中出西施

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Thursday, April 19, 2012

芥川の一服の夢

川龍之介の作品には、煙草のせいか、お酒のせいか、何がしかの精神安定剤のせいか、本を読みすぎているせいか、判然とはしないが、幻想的なものが多いように感じる。『河童』は河童の国を訪ねる一種ガリバー的な物語だし、『蜘蛛の糸』は天国から地獄に蜘蛛の糸を垂らす話だし、『杜子春』は仙人が出てくる話で、漱石が絶賛したという『鼻』はリアリティーのない長い鼻をコンプレックスにしている僧の話である。また、未完ながらも『リチヤアド・バアトン訳「一千一夜物語」に就いて』なるエッセーも書いている。

幻想を好むのは小泉八雲やホルヘ・ルイス・ボルヘスも同じであった。また、中国には一炊之夢の逸話があったと思う。芥川の『魔術』は一炊之夢的モチーフでできた物語である。但し、飯を炊く間の夢ではなく、葉巻を吸っている間の夢だが。

『魔術』が千夜一夜にインスパイアされた物語であることも想像できる。魔術の使い手であるミスラ君は言う。
「ジンなどという精霊があると思ったのは、もう何百年も昔のことです。アラビヤ夜話の時代のこととでも言いましょうか。・・・」
『魔術』において人間の欲なるものは単純に扱われている。富や財への欲望である。しかし、文豪に尋ねてみたいのは、スキルを得たいだとか特別な存在になりたいというのも欲であり、もし欲あるならば、魔術は教われないというのであれば、魔術を身に付けたいと思うことが欲なのだから、決して魔術は教えてもらない、ということになるではないか、ということである。

さて、作家は何と答えるか?

いろいろと論難すると、短編を長編に作り変えて答を提示してくれたかもしれない。


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Tuesday, August 09, 2011

奢る平家は久しからず

奢れる者久しからず

『平家物語』は次のようにはじまる。
祇園精舎の鐘の声
諸行無常の響き有り
沙羅双樹の花の色
勢者必衰の理をあらはす
おごれる人も久しからず
ただ春の世の夢のごとし
たけき者も遂には滅びぬ
偏 (ひとえ) に風の前の塵に同じ
祇園精舎 (梵語: Jetavana vihara) は天竺の仏教僧院。須達 (しゅだつ / 梵語 Sudatta) 長者が舎衛城 (しゃえじょう) の南にある祇陀 (ぎだ / 梵語 Jeda) 太子の林苑を買い取って釈迦 (しゃか / 梵語 Sakya) とその教団の為に建立した。祇陀林寺。ここでは病僧がなくなると弔意を表すために鐘を鳴らす風習があった。釈迦が入滅したときは、沙羅 (さら / 梵語 sala) 双樹の花も白くなって枯れてしまった。それは、さかんであっても必ず滅びる裡 (ことわり) を示している。沙羅双樹は無常の象徴とされている。

奢れる者も久しからずに対応する英語の諺は Pride goes before a fall である。
七世紀、『西遊記』で有名な唐の玄奘三蔵が訪れたとき、祇園精舎は既に荒れ果てた廃墟だったともいわれている。インドではヒンズー教が形成するカースト制社会が確固たるものであったので、万民平等論を説く仏教が根付かなかったことは歴史的事実である。

盲目の琵琶法師が語りをつとめていたことは、小泉八雲が再話した『耳なし芳一 (The Story of Mimi-Nashi-Hoichi)』によって知られている。

関連
平家物語に見る古代中国の悪しき君主たち
Asinus stramen mavult quam aurum


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平家物語
中野美代子訳 西遊記
小泉八雲 怪談

Friday, June 24, 2011

tsunami

tsunami

--- Word DNA ---------------------------------------
1896 "a series of big sea waves mostly generated by an earthquake that often sweeps over the coast at high speed." Also used in a figurative sense: "sudden big wave, movement, etc."

FORMATION
From Japanese (津波 / 津浪): tsu "harbor" & nami "wave."
Other expressions: 海立 / 震汐 / 海嘯
------------------------------------ 言葉の遺伝子 ---

 英国と日本は島国という点で共通なのに、英国では地震が少ないのだろう。細かい活断層は別として、ブリテン島は地殻のプレートとプレートの境界から離れていて、ユーラシアプレートの上にどっしりとのっているから、めったなことでは大きな地震は来ないように思える。
 それに引き替え我が日本列島は北米、フィリピン海、ユーラシアの三プレートの上にのっている状態で、もし仮にプレートとプレートが離れたら、本州が割れるような状態にあり、更に加えて、太平洋沖には太平洋プレートとの境界線が長々とある。
 また、津波は地形が入り組んで海が狭くなっている陸地の近くでは、勢いと高さを増す。三陸のリアス式海岸はまさにその形を成している。津波では、はるか沖合に出ている船が無傷であることもあるが、港 (= 津) にある船は、陸の方へ流され破壊されてしまう。おそらくかなり昔から、日本人は地震のあとのこの手の波を他の自然現象に由来する波と区別して怖れていたのだろう。
 地質学的相違点は日英両民族の言語の語彙にも影響を与えた。日本語の「津浪」は慶長十六年 (一六一一年) に記された慶長三陸地震に関する記述に最古の用例があるのに対して、英語は独自に対応する単語を有していなかった。日本の最古の用例から数百年後の十九世紀後半になって、地震や海底の擾乱が津波を引き起こすことが解明されたらしく、その頃から、tidal wave で津波を指す用法が出現する。 tidal wave の原義は「潮汐波」である。
 海嘯 (かいしょう) は中国から来た言葉であるが、 tidal wave と似ている点がある。嘯の字には「なく、ほえる」の意味があり、海嘯は「うみなり」を指す。海鳴りとは波の砕け散る音。また海嘯は、潮が満ちて海の波が垂直に高まり、川を逆流していく現象のことも指す。中国では銭塘江 (セントウコウ) という川で見られるという。「津波」の意味を有するようになったは、tidal wave がその意味を持つようになったのとほぼ同じ時代の十九世紀後期で、その意味を与えたのは日本人だともいわれている。現代中国語の海嘯 (haixiao) は「津波」のことも指す。
 OED 第二版は、一八九七年に出版された小泉八雲 (Lafcadio Hearn) の『仏の畠の落ち穂 (Gleanings of Buddha-Fields)』が初出だとしているが、『ナショナルジオグラフィック』はその一年前に、明治三陸地震を報告する記事の中で tsunami を使っている。書いたのは親日家の地理学者シドモア (Eliza Ruhamah Scidmore) である。

http://ngm.nationalgeographic.com/1896/09/japan-tsunami/scidmore-text

 学会では地震由来の波を tidal wave で呼ぶのは誤用と考えられるようになり、二十世紀初頭には seismic sea-wave という学術用語が考案された。seismic はギリシャ語由来の単語で、「地震による」といった意味である。また、論文に tsunami / tunami を使う人が出てきて、徐々にひろまっていった。
 一九四六年、ハワイが津波に襲われたとき、地元の日系人が tsunami と呼び、その言葉が地元紙に採用され、多くの人に知られるようになった。この津波から三年後の一九四九年には、太平洋津波警報センター (Pacific Tsunami Warning Center) が設立された。
 一九六八年、海洋学者のドーン (Van Dorn) が、tsunami を正式に学術用語にしようと提案して承認された。tsunami は正式に英語としても国際語としても認知されるようになった。

Tsunami: Deadly Wall of Water
津波 - 死をもたらす水の壁

Caribbean tsunami hazard.
カリブ海で津波を引き起こすかもしれない危険なもの。

A tsunami wave travels rapidly (up to 500 miles per hour).
津波の一波は猛スピード (時速800kmに達することも) でやってくる。

Scientists can predict tsunamis before they reach the shore.
専門家は岸に辿り着く前に津波を予測できる。

 tsunami は比喩的にも用いられている。

A tsunami of people washed away the government of Bolivia. The poor were sick and tired. Everything had been privatized, even the rainwater.
人の波が押し寄せてボリビア政府を洗い流した。貧しき者は病んで疲れ切っていた。何もかも、雨水までもが、民営化されてしまっていたのだ。
 
Economic tsunami: China's car industry will sweep away western car makers
経済の大いなる波 -- 中国の自動車産業が西洋の自動車メーカーを払いのける。

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