Friday, December 07, 2012

足のない幽霊

絵師である円山応挙の妻は病弱であった。ある晴れた月の明るい夏の夜、妻がはばかりから戻って来て廊下を歩いていた。応挙は夢うつつのうちに、障子越しに弱々しく動く影を見た。日本家屋における障子戸の多くは全面が紙を張る格子になっているわけではなく、足下の方は木製で光は通さず、応挙の家では臑のあたりまでが板であった。だから、弱々しく動く障子に写っている影は その上の姿だけであった。
 翌朝、布団から飛び起きた応挙は、すぐに筆をとって、足のない幽霊の絵を描いた。これ以降、日本の幽霊の足はなくなった。

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