Thursday, May 19, 2011

絶対製造工場

 カレル・チャぺックの本。着想がおもしろいと思って読みはじめた。チャぺックが汎神論者だったかどうかはわからないが、汎神論に興味をもっていたのだろう。また、この本は第一次大戦後に発表されたものだが、当時は原子力開発に関心が集まっていたのだろうと思う。汎神論と核分裂をヒントに、エネルギー革命をああだこうだと考え合わせているうちに、想像の産物であるカルブラートルが出来上がったのだろう。もちろん、カルブラートルは核分裂を利用してエネルギーを取り出すものではない。物質を完全に分解消滅させてエネルギーを得るのである。しかし、物質は消滅しても、その「霊魂」「絶対」あるいは、「神」と呼ばれるものが残るのである。物質が完全になくなるまで分解されるから、エネルギー効率はきわめて高い。副産物として出てくる絶対と呼ばれるガスはガンマ線や中性子のように壁をすり抜ける。放射線は染色体を壊すが、絶対の副作用はそういった肉体的なものではなく、精神に作用するものである。絶対に触れた人は欲望をなくしてチャリティー好きとなる。チャペックの想像力が生み出した様々な現象に納得するわけではないが、小説は面白い。絶対は神の豊穣性と多産性を発揮して、カルブラートルを動力とする世界各地の工場でありとあらゆるものを生産過剰状態にしていく。過ぎたるは及ばざるがごとしというが、生産過剰が今日の日本のデフレを招いているように、チャペックの世界でも生産物を無価値なものにしていく。チャペックの世界では造幣局もカルブラートルを動力にしているから、貨幣の価値もなくなってしまう。
 このあたりまではよいのだが、物語も後半にさしかかると、賛成しかねる出来事が起こる。絶対が世界中にまき散らされているのに、各民族・各国民の信仰上の対立から、世界中が戦争に突入していくのである。チャペックはファシズムには反対していたが、共産主義にはある程度の共感をもっていたので、「宗教は阿片だ」ということと同様のことを言いたかったのかもしれない。物語はすべての戦争が終結して終わる。
 すぐれた作家の例に漏れず、チャペックは博愛主義的傾向がある人だと思う。宗教を信じる以上に、人が人を信じるようにすれば、世の中は良くなるといっている。

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