Tuesday, January 24, 2012

世界の音 民族の音


『世界の音 民族の音』
江波戸昭 (えばとあきら) 著

世界の音楽や楽器にまつわる文化的背景を記した本。シルクロードを東から西に向かって進みながら、各民族の音楽の紹介をしている。そして、ヨーロッパを終えたあとはアフリカに飛び、マダガスカルを経由して最後はオーストラリアのアボリジニーのドリーミングについて紹介してくれている。近代以降、欧米人によって、サハラ以南もオーストラリアも、それにもちろん、南北アメリカ大陸も一つにつながったが、それ以前はばらばらに発展したことが、音楽の側面からも認識できるのはこの本のお陰である。ユーラシア大陸においては東のはずれの島国の三味線や琵琶から、中国の三絃、インドのシタール、ロシアのバラライカ、アラブのウード、ヨーロッパのギターやリュートの類まで、すべてつながっているようである。ペルシャや中央アジアの聞きなれない名前の弦楽器についてもいろいろと紹介されている。大航海時代以降は、弦楽器は海を越えてチャランゴやウクレレとなり、バンジョーとなる。残念だったのは、中国の二胡や琉球の三線についての言及がないことと、いかんせん紙の本ゆえ音が出ないことである。いろいろな楽器や音楽の紹介があると、聞いてみたくなるのが自然な欲求というものだ。

ユーラシア・シルクロードのセクションで印象に残っているのは、中国の雲南省の農耕民による天地開闢を垣根越しに歌い合う歌垣のことや、タタールの森の精シュラレの歌、カフカスにおけるアルメニアとアゼルバイジャンの音楽事情 (アルメニアは印欧語族でキリスト教の国だが、アゼルバイジャン同様に音楽ではペルシャの影響を受けているという。カフカスの吟遊詩人アーシュクについてはもっと調べてみたいと思う)。そして、ウィーンを包囲したトルコ軍の行進曲がヨーロッパにもたらした影響である。ヨーロッパに先んじてオスマン・トルコのイスラム勢力は、音楽が軍隊の士気を鼓舞することに気づいていたのだろう。トルコのラッパや太鼓の楽団は味方を奮い立たせ、敵に恐怖を与えるものだった。

シルクロードを西の果てまでいったあとは、アフリカの太鼓の紹介がはじまる。アフリカの太鼓はコミュニケーションの手段であり、物語や様々な知識を記録しておく為のツールであったという。おそらく、アフリカではこの太鼓文化が発達したので、文字が発明されなかったのだろう。アフリカの黒人を買った新大陸の白人たちは、アフリカの太鼓の力を怖れて黒人たちから太鼓類を取り上げたというエピソードも紹介されている。また、メモしておきたいことだが、スワヒリ語の ugoma は太鼓のほか、踊り、音楽、祭り、祝い事、儀式などの意味があるという。つまり、日本人が単に「太鼓」というのとは異なったものであるといえる。日本でも太鼓は魂の音などとたとえられ、祭り事にはかかせないものだが、具体的なメッセージ性は少なく、モールス信号のような通信機能も果たさない。また太鼓自体はお祭りの意味にならない。

西アフリカにはグリオと呼ばれる楽士がいる。グリオというのはフランス人が名付けたものという。熱帯雨林地帯にいるのは太鼓グリオであり、サバンナにいるのが語りグリオだという。現代のグリオ音楽は民族の固有性や原初性が薄れ、ポップス化しているという。要するに、欧米人の耳に心地良いように編曲されているのである。金にならなければ、レコーディングもコンサートツアーも成り立たない。

著者が最後に訪れたのはオーストラリアである。アボリジニーにとってのドリーミングとは何かについての解説がある。この本によると、現地人が英語でいうドリーミングとは、現地語でいうalchera (アルチェラ) のことで、先祖に関する記憶や歌を指す。記憶という言葉は使われていないが、独断で解釈するとアルチェラとは、アボリジニーの神話であり、その記憶である。アボリジニーによると、人間はトーテムと呼べる動植物から転化してきたというが、アルチェラはトーテムやそれ以降の重要なエピソードをすべて内含する。また、オーストラリアには弦楽器は伝わらなかったようだ。彼らの楽器は笛と打楽器である。打楽器といってもブーメランとスティックを叩き合わせるだけのシンプルなものらしい。アボリジニーはドリーミングを歌にして歌う。機会があったら、一度聞いてみたいものだ。

リズム中心の音楽は原初的な響きのもので、南北アメリカ、アフリカ、そして、オーストラリアに、有史以前に伝播したものらしい。

もうひとつ記憶にのこりそうな、ディジェリドゥと呼ばれるアボリジニーの笛の発祥伝説が記されているのだが、それについては、是非、この本を手にとって読んでもらいたい。

久々に本の感想を書いたつもりが、感想というよりは紹介のようになってしまった。

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