『万葉集』には隠野 (なばりの) と呼ばれる地名が出て来る。現在の三重県名張市のことだが、動詞のなばると地名のなばりとの間に語源的なつながりがあるかどうかはさておき、「縁達師」とだけ紹介されているある万葉の歌人は、音の同一性を利用して、次のような歌を詠んでいる。
宵に逢ひて朝面なみ名張野の萩は散りにき黄葉早継げ
よひにあひて あしたおもなみ なばりのの はぎはちりにき もみじはやつげ
「宵に逢ひて朝面なみなばる」は「夜にあって共寝したので、朝になってみると、はずかしくて見せる顔がない」といった意味に取れるが、この部分は名張野を導く為の序詞 (じょことば) で、ひとくちでいうなれば、言葉遊びであり、従って、この歌は本質的に「名張野の萩は散ってしまったので、もみじも早く続け」と叙述している詩にすぎない。奈良・平安の歌集にはこういった文学的技巧の歌がしばしば見出せる。(→われから)
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縁達師
職業なのか、人名なのか、現代人には不明。
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