Saturday, June 02, 2012

首を取り換える中国の怪談

国清代の『聊斎志異 (リョウサイシイ)』には、嫁の首を美人のものと取り換える陸仙の話が載っている。『聊斎志異』は巷間に流布していた怪談を集めて書物にまとめたもので、編者は蒲松齢 (ホショウレイ: 1640-1715) である。蒲松齢はいうなれば中国版小泉八雲といえるだろう。

陸判は死後の審判を行う十人の判官の一人である。仲間にそそのかされて陸をこっちの世界に連れてきたのは怖れ知らずの朱という男で、朱と陸は酒を酌み交わすうちに親しくなっていく。ある晩、朱が先に酔って寝てしまうと、陸は心臓移植手術のようなことを行う。古代エジプトと同様に中国でも心臓が思考や記憶や感情と結びつけられて考えられていたらしい。朱の文才は見違えるほど向上した。(古代エジプトの最後の審判では、あの世の神々が死者の心臓の重さを計ることで判定を下していた)

やがて朱は、内臓が取り換えられるなら首も換えられるのではないかと質問した。陸は、もちろん、と答えた。朱は、妻の下半身は良いのだが、顔がいまいちなので、換えてもらいたいと頼んだ。陸は、いいとも、と答えた。

しばらくして陸は美人の首をどこからか手に入れて持って来て、眠っている朱の妻の首を匕首ですっぱっと切り落とした。首は瓜のようにごろりと転がり落ちた。陸は朱に切り落とされた首をどこかに埋めておくよう命じた。そして、妻の胴体に美人の首を取り付けた。

陸判の話はこのあとも続くが、中国における首を取り換えるモチーフについて見てみよう。

ブスの首と美人の首を取り換える民間伝承の話は古くからある。中国史上の四大美女といえば、越から呉に献上され呉が滅びる原因をつくったとされる春秋戦国時代の西施、和睦の為匈奴に差し出された前漢の王昭君、唐の玄宗の妃となり、自らの一族を次々に要職に就けて権勢を思いのままにふるった楊貴妃、そして、『三国志』で王允 (オウイン) の謀略に利用される貂蝉 (チョウセン) であるが、貂蝉の顔は本当は醜かったのだという。王允は華佗 (カダ) にそのことを相談すると、華佗は貂蝉の首を切り落として西施のものと取り換えた。

それにしても、首を取り換えても、人格が変わらないのは、心が心臓にあると考えられていたからなのだろう。近代になるまで脳の役割は解明されなかったようである。

首を取り換えるきっちょむ話
臥薪嘗胆 (西施がらみ)
狐仙 (『聊斎志異』)

情人眼中出西施

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