Thursday, February 01, 2007

Pluto

 プルトー (ン) は、ギリシャ神話の黄泉の国の神。ギリシャではハデス (Hades) ともいうが、ローマ人はプルトーを借入した。
 プルトーンの名は英語 flow と同源である。印欧祖語「流れる」から、ギリシャ語で「溢れ出る、充溢」ができ、「富、豊饒性」に発展した。黄泉の国は地下にあるとされていたが、大地は地上の人々に様々な恵みを与えてくれるので、原義的にいって、「(地下から) 恵み (ie. 豊かさ) を与えてくれるもの」が、プルトーンであった。一年のうち三分の一の間、緑が消え去り、冬が訪れるのは、デメテルが働かなくなるからであるが、それはデメテルの娘ペルセポネがその間、黄泉の国のプルトーンに囚われの身となっているからである。
 プルトーンと近縁の単語としては、「プルトニウム (plutonium)」、「金権政治 (plutocracy)」、「金権政治家 (plutocrat)」などがあり、ほかに地質学用語があり、例えば、「雨成の (pluvial)」は、ラテン語「雨が降る (pluere: to rain)」から来た単語で、一見、プルトーンとは無縁に思えるが、大元の祖語は同じである。
 「冥王星」の初出は一九三〇年。古代オリエント・エジプト・ギリシャ・ローマにおける星は神であり、それが現代英語でも生きている (eg. Mercury, Venus, Mars, Jupiter, Saturn) が、近代以降、冥王星に先立って発見されていた二つ惑星 (Uranus, Neptune) にも神の名が与えられていたので、必然的に「第九惑星」にも神の名が与えられることになった。
 冥王星の存在は、海王星の軌道の微妙なずれから予言されていたが、その予言者にして探求者の一人にアメリカ人天文学者ロウウェル (Percival Lowell) がいた。ロウウェル自身は「謎の第九惑星」を発見できずに生涯を閉じたが、後継者のトンボーが計画を成就させた。


On February 18, 1930, Tombaugh discovered planet nine, later named Pluto.
一九三〇年二月十八日、トンボーは、のちに冥王星と名付けられる、第九惑星を発見した。


 名称の候補は他にもあったが、Pluto と命名されたのは、先駆者 Percival Lowell の頭文字 PLを活かして、太陽から最も遠い (ie. 地下の神プルトーのように、暗いところにいる) 星という連想からである。
 冥王星は長らく惑星の地位にあったが、その軌道周辺に数多くの小天体が発見されるようになると、冥王星はその代表的存在と位置づけられるようになり、二〇〇六年にはついに、国際天文学連合 (International Astronomical Union) によって「惑星」の定義が提唱・承認され、定義に当てはまらない冥王星は即座に「惑星ではない」と位置づけられ、dwarf planet (正式な和訳語はまだ決定していない) に分類された。発見された dwarf planets の中で冥王星よりも大きいものとしては、(136199)エリス (Eris) がある。
 天体の事件は地上に影響を及ぼす。米語で pluto が動詞化して「降格する」になり、その過去分詞形 plutoed が、米語方言協会 (American Dialect Society) によって、「二〇〇六年の言葉」に選定されたのである。


“Plutoed” Voted 2006 Word of the Year
< www.americandialect.org >
「Platoed (降格された)」、投票で二〇〇六年の言葉に


 ちなみに IAU による惑星や dwarf planett の定義は以下のようなものである。


A "planet" is a celestial body that (a) is in orbit around the Sun, (b) has sufficient mass for its self-gravity to overcome rigid body forces so that it assumes a hydrostatic equilibrium (nearly round) shape, and (c) has cleared the neighbourhood around its orbit.
(footnote)
The eight "planets" are: Mercury, Venus, Earth, Mars, Jupiter, Saturn, Uranus, and Neptune.
「惑星」とは、(a) 太陽周回軌道上にあり、(b) それ自体の重力が個体にかかる諸力を圧倒するのに十分な質量を有していて重力平衡 (ほとんど球) 体を保ち、(c) 軌道上付近の細かな物体を一掃した天体のことである。
(脚注)
「惑星」は、水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星の八つである。

A "dwarf planet" is a celestial body that (a) is in orbit around the Sun, (b) has sufficient mass for its self-gravity to overcome rigid body forces so that it assumes a hydrostatic equilibrium (nearly round) shape, (c) has not cleared the neighbourhood around its orbit, and (d) is not a satellite.
「dwarf planet」とは、(a) 太陽周回軌道上にあり、(b) それ自体の重力が個体にかかる諸力を圧倒するに十分な質量を有していて重力平衡 (ほとんど球) 体を保ち、(c) 軌道上付近の細かな物体を一掃していない、 (d) 衛星ではない天体のことである。


Pluto
[Middle English, borrowed from Latin, borrowed from Greek Plouton (Ploutodotes) "giver of riches", made up of ploutos "wealth, riches" (originally, "overflowing"), from Proto-Indo-European *pleu- "to flow". The first usage in English is the name for the god of the underworld in Greek and Roman mythology. At the beginning of the 20th c., American astronomer Percival Lowell made calculations where an unseen "ninth planet" might be, and, with his colleagues, made telescope sweeps of that area, but they couldn't find it until his death, 1916. Lowell's successors installed a new telescope in Flagstaff, Arizona, and appointed Clyde Tombaugh to continue the search. In 1930, his team found the "ninth planet" and it was named after the initials of Percival Lowell and the Roman god as the lord of darkness (Pluto was considered the furthest planet from the sun at that time) and giver of wealth. In 2006, the General Assembly of International Astronomical Union established the definition of a planet that didn't categorize Pluto as a planet. They classified it as a dwarf planet, which was the new technical term coined then. After that, the verb pluto appeared in American English which means "to devaluate (someone or something)".

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